航空母艦対日本空母機動部隊

対照的な二つの空母戦ゲーム

　「航空母艦」はツクダから出版された太平洋戦争の空母戦をテーマとしたビッグゲームです。スケールは非常に細かく、航空機は1機単位で登場します。プレイ時間も非常に長く、恐らくこれを上回る空母戦のゲームは現段階では存在しないと言っても良いのではないでしょうか。

　これに対して、「日本空母機動部隊」はエポックから出版された同じく太平洋戦争の空母戦をテーマ（水上戦だけのシナリオもある）としたゲームです。どちらかというと初心者向けで、スケールはかなり大ざっぱです（例えば航空機は1ユニット9機）。しかし、そのお陰でプレイアビリティは高く、手軽にプレイ出来ます。空母戦ですので、ソロプレイは出来ませんが（とはいえ、「航空母艦」よりはましで、ある程度は不可能ではないです。

　これでもこれでもかと言う位細かいです。(^^;航空機は当然１機単位で登場しますし、水上機も登場します。索敵機も含めて、航空機の移動はすべてプロットされ、高度も三段階に別れています。艦艇の性能は改装を考えて、時期により異なります。例えば、大和は当初は副砲を十二門搭載していますが、後半は六門に半減する変わりに高角砲を倍増した訳ですが、これが反映されます。また、航空機の能力も平均的練度の変化を反映してか、時期により異なります。序盤は強力な零戦が徐々に能力が低下するようになっています。特に注目すべきは、空対艦戦闘が発生した場合には、戦術マップに艦艇が配置され、その上を航空機ユニットが移動していきます!ですから、雷撃機は雷撃を行うまでに複数回対空砲火を受けることになります。しかし、艦艇は回避運動を行ったりはしませんし、さすがに魚雷がマップを走ったりはしません。どうせやるなら、そこまでやればとも思わないでもないです。艦の損害は記録表に詳細に記録し、火災が延焼したり、鎮火したりします。

　シナリオとしては、練習シナリオからマリアナ沖海戦（プレイするには二セット必要。(^^;）、信濃が登場する仮想シナリオまであります。とはいえ、実際にはミッドウェー海戦や南太平洋海戦でもプレイは非常に困難です。練習シナリオを除けば、私がちゃんとプレイしたことがあるのは、珊瑚海海戦が一度あるのみです。この時には、一方的に日本側が攻撃を行いましたが、攻撃隊はヨークタウンの中破と引き換えに戦闘機を除き全滅しました。(^^;このゲームの対空砲火、特に連合軍側は非常に強力です。対空砲火でばたばたと撃墜されたというイメージがある南太平洋海戦やマリアナ沖海戦でも、実際には戦闘機に撃墜されたものが多くあったことを考えれば、明らかに過大と言えます。このゲームの大きな問題点の一つです。

　空母戦ゲームの最大のポイントは索敵ルールでしょう。現実にもっとも近いのはブラインドサーチです。お互いに相手のマップを見られないようにして、索敵するヘックスを相手に伝えて、結果を知らせるというやり方です。ただし、このやり方には一つ重大な問題があります。それは相手がどこを索敵しているかが分かってしまうということです。また、発見されたかどうかが分かるという問題もありますが、まあ、こちらはそれ程害は無いでしょう。発見されたことに気が付かなかった場合もありますが、気が付くことも多いですから。しかし、相手がどこを索敵しているかが分かるというのは、かなり問題があります。まず、相手の位置が推測出来る場合があります。また、相手の索敵機から逃げることも出来ます。ソロプレイ不可能というのもありますが、これはまあ、空母戦は基本的にはソロプレイ不可能ですから良いでしょう。解決方法はあります。それは双方のプレイヤー以外の第三者（判定者）が参加することです。こうすれば、ほぼ現実通りのことが出来ます。プレイヤーは判定者に索敵する場所をつげ、判定者が誤認も含めて判定し、結果を告げれば、相手プレイヤーに気づかれずに索敵可能になります。ただし、最低三人必要になりますし、それぞれのプレイヤーが別の部屋にいるのが理想でしょう。「航空母艦」ではブラインドサーチは採用されていません。どうせ、プレイ困難のビッグゲームなんだから、採用すればいいじゃないとも思いますが、スケールが細かいため、マップが広いので、困難であるということもあります。で、このゲームでは、ダミーマーカーを使用します。マップ全体を（全ヘックスではないものの）ダミーマーカーが覆い尽くし、その中に実際の艦艇や航空機がまぎれこんでいるのです。マップの上は雲もあったりして、極力実際に起きたことを再現しょうとしています。ただ、じゃあ、この方式が成功したかというとそれは疑問です。ダミーマーカーの基本的な問題点は解決されていません。どうせビッグゲームで、二人でもプレイは難しいと思いますから、ブラインドサーチで良かったのではないかと思います。

　こちらは前述の通り、大雑把です。航空機は１ユニット９機で、ユニットの裏で半減状態を示します。特長的なのは対艦戦闘時の対空砲火で、対空能力により、ダイスを振り、攻撃機の被害を判定するというのは、普通のシステムですが、その結果が少し違います。結果は、撃墜と修正の二通りあるのです。つまり、対空砲火は、撃墜するだけではなく、攻撃判定に修正を与え、攻撃が命中しにくくする効果があるのです。これは当時としては画期的だと思いました。激しい対空砲火により、撃墜されなくても、攻撃しにくくなるということは確かにあります。この点はこのゲームでもっとも評価したい点です。

　もう一つユニークなのは、索敵ルールです。基本的にはダミーマーカーを使用します。そして、索敵可能なヘックス数がそれぞれ定められており、それに従い、索敵したいヘックスを相手に告げます。相手は、チットを引いて、結果を告げます。チットには発見、発見せず、誤認の三種類があります。発見せずの場合には、そのまま発見せずと伝えます（艦隊がいてもいなくても）、発見が出た場合には、正直に相手につげます。ダミーであれば、敵艦隊は見えず意と伝え、空母を含む艦隊であれば、空母機動部隊発見と伝え、空母を含まない場合には艦隊発見と伝えます。これだけ聞くと、相手がどこを索敵し、その結果がどうだったかが分かるため、余り良いシステムには思えません。しかし、ポイントは、誤認マーカーにあります。ダミーと空母機動部隊の場合には敵艦隊発見とつげ、空母を含まない場合には、敵艦隊発見と伝えます。このため、あるダミーマーカーを一度索敵しただけでは、その結果が正しいかどうか分かりません。チットの割合から言えば、正しい可能性がもっとも高いのですが、誤認である可能性もあります。また、被索側も例えば自分の空母機動部隊が発見されて、誤認で艦隊発見と告げた場合に、相手がどう考えるかは分かりません。ですから、システムとしは簡単ですが、比較的うまく機能します。索敵したヘックスから相手の位置を推測することは、索敵可能ヘックス数がそれ程多くないのと一ヘックスが75kmと大きいため、実際には余り問題にはなりません。「航空母艦」のシステムが手間がかかるわりには、いまいちなのに比べると良く出来ていると思います。もちろん、判定者付きのブラインドサーチには劣りますが。

どちらが優れているか

　非常に詳細な「航空母艦」に対し、空母戦のゲームとしてはミニマムと言える「日本空母機動舞台」、非常に 対象的な二つのゲームです。さて、それではより詳細な「航空母艦」の方が優れたシミュレーションゲームなのでしょうか？そうとは言い切れません。確かに「日本空母機動部隊」には問題点は少なくありません。スケールが大雑把であることもありますが、例えば、零戦が無敵だとか（空中戦能力5で、零戦のみ分割可能で、分割後3。これに対し、F4Fは空中戦能力3で、倍の数で零戦と同等）、SBDよりも九九艦爆の対艦能力が高いとか、日本の防空能力が高過ぎるとか。しかし、これらは致命的なものではありません。必要に応じて修正すれば、改善されるものです。例えば、零戦の分割を不可にするとか分割後は空中戦能力を2にするとか（分割前を4にするという手もあります)。これに対し、「航空母艦」は確かに考えつく要素の過半をルール化していますが、プレイが非常に困難であること、細かくしたが故に矛盾も生じていること、対空砲火が強過ぎて、日本の攻撃隊はほとんど帰って来ないことなど、問題点も多く、しかも、ちょっとした数値の変更などでは、修正出来ないのです。ビッグゲームにありがちな話ですが、細かくすれば、省略できない部分が更に増えます。ある部分を細かくして、ある部分を省略すると矛盾が生じ、史実からかけ離れてきます。ディテールを追及するか、全体の流れが史実を再現出来ればよしとするか、それは個々のデザイナーやプレイヤーにより異なるでしょうが、プレイ不能に近いビッグゲームよりは、大ざっぱでも手軽に出来るゲームを私は評価したいです。「航空母艦」を私は偉大な失敗作と賞したいと思います。逆に「日本空母機動部隊」は、平凡な名作と賞しましょう。もっともどっちが好きかと言うと、私自信は細かいビッグゲームだったりしますけど（笑）。だって、ユニットやらデータシートを眺めているだけで楽しめるじゃないですか。下手するとプレイする以上に（爆）。